Low-Lケーブルって、そもそもナニ?

Low-Lケーブルとは

Low-Lとは低インダクタンスということで、一般的な(Low-Lでない)ケーブルと比較すると、ケーブルのインダクタンスがおおよそ1/3となっています。では、インダクタンスが低いとどのような良いことがあるのでしょうか。今回はLow-Lケーブルが必要な理由や必要となる条件についてまとめてみたいと思います。

電圧降下には2種類ある

例えば下図のように直流電源を被試験物(負荷)に接続して電流を流したとき、接続するケーブルとそれに流れる電流によって電圧降下が発生するのはご存じでしょうか?直流電源の出力電圧は10Vですが、ケーブルの電圧降下(行きと帰りの往復)で1V低下するため、被試験物に印加される電圧は9Vとなっています。これは流れる電流が一定で変化しないときの電圧降下であり、「静的な電圧降下」と呼ばれます。(降下電圧はオームの法則 電圧=抵抗×電流 により算出できます)

一般的に直流電源の試験を行う場合電子負荷を使用しますが、ケーブルの電圧降下によって電子負荷への印加電圧が低下し、場合によっては電子負荷の最小動作電圧よりも低下する可能性がありますので注意が必要です。

これに対して電流が高速に変化しているときの電圧降下は「動的な電圧降下」と呼ばれ、単純ではありません。

名称説明
静的な電圧降下電流が安定的に流れている「定常状態」のときの電圧降下で、ケーブルの抵抗値に比例して大きくなります。
動的な電圧降下電流が高速に変化した「過渡的な状態」に発生する電圧降下で、ケーブルのインダクタンス値に比例して大きくなります。

電流が高速に変化したときに発生する電圧降下はケーブルのインダクタンス値に比例すると書きましたが、ケーブルに交流を流すとコイル(インダクタ)として動作し、コイルの抵抗値(インピーダンス)は周波数が高くなると大きくなるという性質を持っています。コイルのインピーダンスは次の公式によって算出できます。

コイル(ケーブル)のインピーダンス = 2 π f L(Ω)

ここで、πは言わずと知れた円周率3.14159…で、f は周波数、Lがインダクタンスとなっています。 試しに長さ1mの普通のケーブル(Normal)とLow-Lケーブルのインピーダンスを比較してみましょう。それぞれのインダクタンスは、Normal = 300nH, Low-L = 100nH となっています。

周波数NormalLow-L備考
1kHzほぼゼロΩ
10kHzほぼゼロΩ
100kHz0.2Ω0.1Ω 
1MHz1.9Ω0.6Ω 
10MHz18.8Ω6.3Ω 

見ておわかりのように、周波数10kHzまではどちらもほぼゼロΩですが、100kHzを超えると差が出始め1MHz以上ではNormalケーブルはLow-Lケーブルのほぼ3倍となっています。これはとりもなおさずNormalケーブルの電圧降下はLow-Lケーブルの3倍になると言うことを表しています。  ここで「周波数」と表記していますが、ここでの周波数は一般的な繰り返し周波数ではなく立ち上がり時間から計算した周波数帯域を表しています。下図の電流波形で言えば、電圧降下が発生するのは電流が立ち上がった瞬間であり、このような波形の場合繰り返し周波数は関係ありません。

例えば、立ち上がり時間0.5μsの場合の周波数帯域は以下の式で算出することができます。

これは電流波形の立ち上がり時間が0.5μsの場合、その部分の周波数帯域は700kHzとみなせると言うことであり、立ち下がり部分についても同様のことが言えます。なお、立ち下がり部分では電圧降下と逆の現象が発生するのですが、これについては実際の電流・電圧波形を見ながら確認してみましょう。
以下の波形は負荷ケーブルに流れる電流を急激にOFFしたときのもので、CH1 = 電圧波形  CH2 = 電流波形となっています。見ておわかりのように電流が急激に減少した瞬間に電圧が急上昇しています。

これはインダクタンスによる逆起電力という現象であり、電流の変化が急激になるほど大きな電圧が発生し、次の式で求めることができます。

仮にケーブルのインダクタンスが 1μH、電流の変化量(di/dt)が10A/μsとすると、そのときに発生する逆起電力は、1e-6×(10 / 1e-6) = 10V となります。この逆起電力は使用条件によっては障害や機器の故障を引き起こす原因になるため注意が必要です。

このような場合にも Low-L ケーブルを使用することにより、以下のように逆起電力を低減することができます。

関連ページ

コイルって、そもそもナニ? https://www.keisoku.co.jp/pw/%e7%94%a8%e8%aa%9e/362_coil/
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インダクタンスの低減方法 https://www.keisoku.co.jp/pw/app/305/
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最小動作電圧の無い電子負荷 https://www.keisoku.co.jp/pw/product/power/dc-load/load_station/