その1 電気エネルギーはどこへ行くのか?
電子負荷装置は、見方を変えるとエネルギー供給源から任意の量のエネルギーを別の所に移す装置と見なす事ができるかと思います。こうして見た場合、そのエネルギーは何処に行くのでしょうか?
当然、エネルギー保存の法則を破る事はできませんので(できたら大変な事になりますが)、元の電気エネルギーは何らかに形を変える、つまり変換する事で何処かに移される事になります。
エネルギーには、電気エネルギーの他熱エネルギーや運動エネルギー、位置エネルギーなど様々にありますが、一般に使える道具として実現しなくてはなりませんので、市販の電子負荷装置は主に2つのエネルギー変換方式を採用しています。
一つめ – 「電気エネルギーを熱エネルギーに変換する方式」
この方法は伝統的な方法です。物に電流を流すと熱が発生する事はかなり以前より知られており、19世紀に法則として体系化されました。「ジュールの法則」と言う言葉を中学か高校で聞いたことがあるかと思います。
ジュールの法則: 発生熱量 = 抵抗値×(電流値の2乗)×時間
ジュールの法則によれば、何らかの抵抗値を持つ物体に電流を流すと、その抵抗値に比例して電流値の2乗に比例する熱が発生します。電子負荷装置では、この原理を利用して電気エネルギーを熱エネルギーに変換しています。
これは一般の抵抗器と同じ原理になりますが、電子負荷装置ではこれを半導体にすることで高速・高精度で制御可能な抵抗器を実現しています。半導体で熱に変換され、ヒートシンクなどを介して熱エネルギーは処理されます。
変換した熱エネルギーは、途中その吸熱や放散システムには色々工夫があるものの、最終的には空気中に放散されます。このためこの方式では、電気エネルギーはほぼ再利用不可能で純粋な損失になります。冬場であれば暖房の足しになるかもしれませんが、せいぜいその程度です。
二つめ – 「電気エネルギーを電気エネルギーに変換する方式」
なぜ、電気を電気に?と思われるかもしれません。ここで言う電気エネルギーを電気エネルギーに変換すると言う意味は、電気エネルギーの形式(直流と交流や電圧と電流)を変換すると言うことになります。例えば、元は直流だったものを交流に変換すると言った具合です。
もし上手く元の電気エネルギーを商用ラインと同じ形式(100Vrms-50Hzなど)に変換してやる事ができれば、一般の電気機器をそれで動かす事が可能になります。つまりエネルギーのリサイクルが可能になると言う訳です。
地球温暖化防止、CO2排出量削減、エコでなんでもリサイクルのご時世ですから、この「電気エネルギーを電気エネルギーに変換する方式」はとても良い電子負荷装置の実現方式と言えます。
ここまで読まれた方は、「ではなぜ全ての電子負荷装置が『電気エネルギーを電気エネルギーに変換する方式』を採用しないの?」と思われると思います。実は、「電気エネルギーを電気エネルギーに変換する方式」には主に3つの問題があります。
問題その一 コスト上昇してしまう問題
問題その二 系統連携の問題
問題その三 性能が低下する問題
「電気エネルギーを電気エネルギーに変換する方式」は「電気エネルギーを熱エネルギーに変換する方式」に比べて構成が複雑で、どうしてもコストが上昇してしまいます。ただ、これは原理的な問題ではありませんので工夫により改善の余地はあります。電気代やCO2排出権など、先々はコスト面では見劣りしない様になるのではないかと思います。
避けがたいのが系統連携と性能低下の問題ですが、これについては次回以降それぞれ取り上げたいと思います。
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その2 回生と系統
前回の記事では、電子負荷装置のエネルギーの変換方式として「電気エネルギーを電気エネルギーに変換する方式」、つまりエネルギーのリサイクルを可能にする方式がある事をご紹介しました。一般にはこの様にエネルギーをリサイクルする事を「エネルギー回生」、あるは単純に「回生」と呼んでいます。
- 回生エネルギーは系統に戻して再利用
回生されたエネルギーは有効に使わなければ意味が無いのですが、それ単独で使おうとすると少々難しい事になります。多くの場合、回生されるエネルギーは安定したものではなく、タイミングも量も変化します。
電子負荷装置の場合で言えば、電子負荷装置の負荷が機能している時にしか回生エネルギーは発生せず、その量も動作状態に依存します。これでは安定して再利用する事は難しくなります。
このため、通常電子負荷装置では回生エネルギーは一般の商用の配電線網(皆さんがいつもお使いのコンセントもこの一部です)に戻すようになっています。商用の配電線網に回生エネルギーを供給すれば、そこに繋がっているコンセントを通じて様々な機器で有効活用されると言う寸法です。
一般に商用の配電線網を「系統」と呼び、これに発電設備を接続して運転することを「系統連系」と言います。「系統」に回生エネルギーを戻す電子負荷装置も一種の発電設備と見なせますので、系統連携による運用と言うことになります。 - 系統に戻すには国が定めたルールを守る必要有り!
実はこの系統連携は勝手に行って良いものではなく、かなり厳密に法規及びその所轄省庁からの通達によってその運用ルールが定められており、これを遵守することが求められています。とうぜん回生可能な電子負荷装置も、そのルールを満たしているかを確認した上でなければ運用できません。
これが前回の記事で上げた3つの問題の1つ、「系統連携の問題」です。
実はこのルールは保安上の規制と実施ガイドラインの2つからなります。 - ルール1 電気事業法(保安上の規制)
電気事業法とは電気事業および電気工作物の保安の確保について定められている法律です。電気事業法には系統に繋がる電気工作物の保安に関する規定があります。
一般の機器であれば電気事業法とは関係しないのですが、回生可能な電子負荷装置は非常に広義にとらえると発電設備とも考えられます。発電設備となると電気事業法の規制対象となります。
では回生可能な電子負荷装置は発電設備でしょうか?
結論から言えば、固定的に系統に接続された回生可能な電子負荷装置以外は、発電設備とはなり得ません。
コンセントから電気を取る様な電気機器はそもそも電気工作物の範疇に入らず、例え入ったとしても一般用電気工作物に分類される「小型発電設備」には含まれないからです。
- 太陽電池発電設備であって出力20kW未満のもの
- 風力発電設備であって出力20kW未満のもの
- 水力発電設備であって出力10kW未満のもの(ダムを伴うものを除く)
- 内燃力を原動力とする火力発電設備であって出力10kW未満のもの
- 燃料電池発電設備(固体高分子型のものであって、最高使用圧力が0.1MPa未満のものに限る)であって出力10kW未満のもの
このため電気事業法による規制対象外となります。
昭和61年、ビルなどへのコージェネレーションなどの分散電源導入の環境作りとして電気事業法に基づく「系統連系技術要件ガイドライン」が制定されました。その後平成16年に太陽光発電や風力発電導入に対応するため「系統連系技術要件ガイドライン」は廃止され、「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」が資源エネルギー庁により設定されました。
「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」
このガイドラインは系統連携をする機器の種類によらず、遵守する必要がありますので回生可能な電子負荷装置も例外ではありません。
その3 系統連携とその条件等
どの様な機器でも、回生の為系統へ接続するには資源エネルギー庁の 「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」を遵守する必要があります。
ここでは、数KWまでの小容量の回生可能な電子負荷装置を系統に接続する際の注意点を見てみます。
※系統の種類
ガイドラインでは系統の種類を下記のように規定しています。
・低圧配電線
・高圧配電線
・スポットネットワーク配電線
・特別高圧電線路
一般的な電子負荷は単相/三相100/200V系で使用され、これは低圧配電線になります。以下では低圧配電線での規定と回生可能な電子負荷装置に関わるポイントを見てみます。
- 逆潮流
逆潮流とは、電気事業者からの受電点を超えて電気エネルギーを電気事業者側の配電網に戻す事を言います。ほんの少しの逆潮流でも厳しく規制を受ける事になります。
回生可能な電子負荷では、負荷として引いてきた元のエネルギー以上には戻せませんので、元のエネルギーを系統から得ていれば逆潮流はありません。回生可能な電子負荷装置を使う場合には、元のエネルギーを消費する電源などと、電子負荷装置を同一の系統で利用する方法をお勧めします。
系統とは無関係の電池などからエネルギーを持ってくると、場合に因っては逆潮流の恐れが出てきますので何らかの対策が必要になります。 - 力率
逆潮流なしの条件では、「発電設備力率が95%以上」と規定されています。これは、電子負荷装置が電圧に同期して電流を戻しているかどうかを問題にしており、各製品毎の仕様を確かめる必要があります。 - 常時電圧変動対策
適正電圧である101±6V又は202±20Vを逸脱する恐れがある場合には、自動的に電圧を調整する機能を持たなければならない事になっています。ただし、・単相2線式2kVA以下
・単相3線式6kVA以下
・三相3線式15kVA以下に該当する発電量(回生量)しか無い場合は免除されるとあります。
電子負荷装置であればその負荷容量以上には回生できませんので、回生力率が1にほぼ等しいとすると、利用の系統形態に応じて2kW、6kW、15kW以下というところを選択の基準にします。 - 瞬時電圧変動対策
回生可能な電子負荷装置は、メーカーを問わず概ね自励型の逆変換装置となり、回生部にあるインバーターと呼ばれる部分がこれに相当します。ガイドラインでは「自動的に同期がとれる機能のものを使用」とあります。これは系統の電圧の変化(SIN波)に同期して回生エネルギーを戻す事を要求しており、各製品毎の仕様を確かめる必要があります。 - 不要解列の防止
解列とは電力系統から発電設備等を切り離すことを言います。ここでは電圧低下時間が整定時限以内なら解列せず自動復帰を、整定時限を超える場合は切り離す事が要求されています。整定時限とは保護継電器が動作するまでの調整上の遅延時間の事です。
電子負荷装置の場合、保護継電器に相当するのは何らかの理由で回生時の電圧を維持できなくなった場合に働く保護回路になり、これが動作異常を検出するまでの時間が整定時限に相当します。その様な保護回路の有無を各製品毎の仕様から確かめる必要があります。 - 単独運転
ガイドラインでは「単独運転禁止」とありますが、これは系統側が停電状態で発電機のみが単独で動作している状態を指します。電子負荷装置の場合、系統以外から電源を取らない限り単独運転はできません。必ず系統より電子負荷装置自身の電源を取ることをお勧めします。以上をまとめると、回生可能な電子負荷装置を選択または使えるのかを判断するポイントは以下の様になります。 ・負荷のエネルギーを同一の系統から引く様な用途か?(逆潮流防止)
・回生力率が95%以上か?
・負荷容量が2kW/6kW/15kW以下か?
・系統に同期して回生出来るか?
・回生電圧低下に対する保護回路を持っているか?
・電子負荷装置自身の電源へ回生する事ができるか?(単独運転防止)当然ながら市販の回生可能な電子負荷装置は基本的にはこれらの項目をクリアしています。ただ、利用条件などに注釈が付いていることもありますので、選択する際には実際にお使いになりたい案件と上記のポイントを確認する必要があります。
その4 回生負荷とリップル
系統の問題は理解するには苦労はしますが、結局何らかの法令やガイドラインを遵守すれば良いだけの話ですので回避可能なもの言えます。しかし回生可能な電子負荷装置に付きもののリップル(電流リップル)については、やりたいことが出来なくなる可能性がある問題であり、そういった意味では系統連携より深刻な場合があります。
電流リップルとはその名称の通り、負荷の電流に現れる脈動の事です。
例えば10Aの電流を定電流で負荷を引いた場合、回生可能な電子負荷装置では10Aちょうどの電流では無く、僅かな量ですが短い時間間隔で電流が波打って変化します。下の図の水色のノコギリ上に変化している波形が電流リップルの波形となります。
この様な周期的に脈打つ電流の事を電流リップルと呼びます。
回生可能な電子負荷装置はほぼ100%回生部にスイッチング方式を採用しています。スイッチング方式は電気エネルギーの変換効率が良く回生効率を良くするには良い方法なのですが、反面スイッチを入り切りして目標となる指定の電流に合わせる方式のため
・スイッチON 負荷電流が増加→目標を超える→スイッチをOFF
・スイッチOFF 負荷電流が減少→目標を下回る→スイッチをON
と言う様に常に、設定値を目標としてその境を行ったり来たりするため、電流が周期期的に変化してしまいます。この幅はスイッチングの周期を早めたりする事で小さくはできるのですがあまり早くするとスイッチング損失が大きくなり、回生効率が下がると言う面もあるためむやみに周期を上げる事はできません。
このため原理的にスイッチングによる電流の周期的変化=電流リップルを避けることは出来ません。
この電流リップルの大きさ(p-p)は回生可能な電子負荷装置にもよりますが数A程度になります。
この電流リップルが問題にならない様な用途であれば問題ないのですが、特に小電流やノイズが問題になるような用途では電流リップルが大きいと使えない場合も出てくるため、回生可能な電子負荷装置は主として大型の、大きな容量のものしかありませんでした。
この為多くの技術者にとり回生可能な電子負荷装置は特殊なものであり、身近な存在ではありませんでした。
しかしこれを打破し、電流リップルが無いか又は非常に小さく、しかも回生可能な電子負荷装置があればどうでしょうか?
これを使わない理由は無いかと思いますが如何思われますか?