【やさしい技術解説】交流電源装置を使うときに気にしたい事その4 – 高調波規制とは?
「高調波規制」と言う言葉、度々この連載でも出てきましたが、そもそも「高調波が何故規制されるのか?」更には「高調波とは何か?」と言う事については説明してきませんでした。今回は高調波とその規制の意味についてご説明します。
高調波とはある周波数に対し、その周波数の整数倍となる高次の周波数成分の事を高調波と言います。この高調波と言う概念は全ての波動現象を対象としています。電気だけを対象としたものではありません。
電気の世界での高調波とは交流に関する事を指します。電圧に着目した場合の「高調波電圧」、電流に着目した場合の「高調波電流」があります。高調波規制は主に高調波電流を対象としたものですがこれは、電圧については給電側が定電圧で高調波を含まない交流で供給する事を前提としているのに対し、電流は受電側がどの様に電気を利用するかにより高調波の発生具合が決まってしまう為です。
例えば、東日本の一般家庭に供給されている電気は周波数が50Hzの交流です。これに電気ストーブや白熱電球の様な純抵抗器が接続される様な場合には電圧も電流も全く高調波を含まない下の図1の様な完全なSIN波となります。
こういった機器が主流の時代は高調波は問題となりませんでしたが、現代ではより多様な機器が利用されるようになり高調波の問題が顕在化しました。電気を交流から直流に変換して使用する事が多くなりこの変換を効率よく実行するスイッチング電源が多く利用されるようになり高調波電流は無視できなくなります。
入力部に大型のコンデンサを使用するスイッチング電源ではコンデンサの充電時にのみ電流が流れるため一旦充電されたコンデンサには完全放電しないかぎり電圧が低い区間では全く電流が流れなくなってしまいます。このためSIN波はと全く異なるパルス状の大きなピークを持つ電流が流れ高調波電流が流れる事になってしまいます。
高調波が及ぼす影響は電圧、電流でそれぞれ有りますが概ね以下の様な事が発生する可能性が生じます。
・映像のチラツキ,雑音の発生などと言った、誤動作や動作不良
・加熱や振動発生による寿命の短縮や性能低下、故障
・入力電力の測定誤差が著しく大きくなる
・有効に利用される電力が小さくなりより大きな配電設備が必要になる
実際に給電設備の一部が焼損した例などももあり、電力会社などでは高調波への対応をホームページなどで呼びかけています。高調波規制はこう言う問題に対処する事を目的として日本では1996年より開始されました。
このような高調波問題の対応策には主に以下の3つが考えられます
・給電設備に十分な余裕をもたせる
・給電系統のラインインピーダンス(交流抵抗)を十分に小さくする
・受電側は高調波対策の施された機器を使用する
給電側を変更するのは、新しく建築する際などは出来ますが既にあるものを改善するのはなかなか難しいと思われます。やはり受電側での高調波対策が現実的な選択肢となり、高調波規制も受電側の高調波電流を規制するものとなっています。結果、「高調波規制対応」と銘打った製品が出てくる様になりました。