リップルノイズ測定のプローブって、そもそもナニ?

リップルノイズ波形の模式図

はじめに

スイッチング電源の直流出力に現れるリップルノイズを測定するとき、どのようなプローブをお使いでしょうか?もしオシロスコープで測定しているとしたら「オシロ付属のプローブに決まってるでしょ」と言われるかも知れませんが、実はリップルノイズ測定ではオシロスコープ付属のプローブ以外にもいくつかの選択肢があります。

プローブの種類

スイッチング電源のリップルノイズ測定では主に以下のようなプローブが使われています。

名称入力インピーダンス備考
10:1プローブ
(オシロスコープの付属品)
10MΩ入力インピーダンスはプローブの機能で
切替できるタイプもあります。
 10:1 … 10MΩ
 1:1 … 1MΩ
同軸ケーブル50Ω高周波終端抵抗と組み合わせて使用
差動プローブ50Ω

10:1プローブ

オシロスコープの付属品として広く普及しており、オシロスコープのあるところには必ずありますね。オシロスコープは様々な測定に対応できる「汎用測定器」ですから、その付属品も「汎用プローブ」と言うことができます。汎用ということは測定対象によってプローブを変更する手間が省けますので便利である反面、測定条件によってはうまく測定できない可能性もあります。例えば次のような場合です。

プローブイメージ

高インピーダンス回路の測定

10:1プローブは入力インピーダンスが10MΩと高く、測定対象物に接続してもその影響が無視できるように考えられていますが、測定対象物の回路インピーダンスが高い場合プローブの接続によって回路の動作が変わってしまうことがあります。

高周波回路の測定

100MHzを超えるなど高い周波数を扱う回路ではプローブの入力容量についても注意が必要です。例えば、10:1プローブの入力容量は10pF程度ですが100MHz時のインピーダンス(※)は約160Ωとなります。また、10:1プローブの先端部分は利便性を考慮して少し長めに作られており、この部分がアンテナの役割をして測定結果に影響を及ぼすこともあります。

※コンデンサのインピーダンス計算
  インピーダンス = 1 / 2πfc = 1 / (2 * 3.14159 * 100e6 * 10e-12) ≒ 160Ω

スイッチング電源の出力に現れるスイッチングノイズに含まれる周波数成分が100MHzを超えるのはめずらしくありません。これを10:1プローブで測定した場合、プローブ先端の処理などを工夫しないと安定した測定ができないことがあります。そこで、JEITA(電子情報技術産業協会)のスイッチング電源委員会では様々なスイッチング電源のリップルノイズを定量的に安定した測定を実現するための規格(※)を策定しました。この規格では同軸ケーブルと高周波終端抵抗を組み合わせた測定回路を推奨しています。(他の方法として、ツイストペアケーブルとコンデンサを組み合わせた方法もありますが、ここでは割愛します)

※JEITA規格 https://www.jeita.or.jp/japanese/public_standard/
  スイッチング電源試験方法(AC-DC)RC-9131D
  スイッチング電源試験方法(DC-DC)RC-9141B

同軸ケーブル

高周波を伝送するときに同軸ケーブルを使うのは一般的であり、特にめずらしい方法ではありませんが、写真のケーブルは一般的なものとは少し異なっています。市販のケーブルだと先端のクリップ部分は長いもので15cmほどありますが、このクリップ部分がかなり短くなっているのです。この写真のケーブルはスイッチング電源のリップルノイズ測定を想定しており、先端部分は必要最低限の長さになっています。

同軸ケーブル

また、50Ωの特性インピーダンスを持った測定経路ではその信号を受ける側で50Ωにより終端するのが定石となっています。

同軸ケーブル測定経路

この測定回路をそのままスイッチング電源のリップルノイズ測定に使用すると、次のような問題が発生します。例えば48V出力のスイッチング電源の場合、50Ωの終端抵抗に48Vが印加されることになりますので終端抵抗に流れる電流はオームの法則により

電流 = 電圧 ÷ 抵抗 = 48V ÷ 50Ω = 0.96A

となり、約1Aもの電流が流れることになります。これを電力で考えると、50Ωで消費される電力(I2R)は、0.96A × 0.96A × 50Ω = 46.08W となり、ほぼ50Wですから50W以上の大きな抵抗が必要となりますね。スイッチング電源の出力電圧が高くなるほど電力も大きくなりますので、この方法はあまり現実的ではありません。  そこで考えられたのが「高周波終端」という方法です。下図のように終端抵抗に直流が流れないよう、直流カットコンデンサを入れるだけのシンプルなものですが、これにより「高周波のみ50Ωで終端される」ことになりますので過電力で終端抵抗が焼損することはありません。

終端抵抗を使った測定回路

差動プローブ

スイッチング電源の出力にコモンモードノイズが含まれているときに使われているものです。差動プローブ自体は一般的なものですので詳しい説明は割愛させていただきますが、写真の差動プローブは電源不要の「パッシブプローブ」となっており、前項の同軸ケーブルと同様に特性インピーダンスは50Ω、高周波終端抵抗と組み合わせて使用します。

終わりに

リップルノイズの測定は「信号ではなくノイズを測定する」という特異性がありますが、高周波伝送の定石に従ったプローブで測定すれば安定した測定をすることが可能です。また、リップルノイズ専用の測定器(リップルノイズメータ)を使えばリップルとノイズを分離し、それぞれの測定を安定して行うことが可能です。

関連ページ

【リップルノイズ】オシロスコープによる測定 https://www.keisoku.co.jp/pw/u-po/348_ripple/

高周波終端抵抗 https://www.keisoku.co.jp/pw/product/measuring/probe/trc-50f2/

差動プローブ https://www.keisoku.co.jp/pw/product/measuring/probe/dp-100/

リップルノイズメータ https://www.keisoku.co.jp/pw/product/measuring/ripple/